2012年01月29日

佐藤優氏の「ウチナー評論」批判

佐藤優氏の「ウチナー評論」批判

 『「普天間」交渉秘録』には小泉元首相の支持で守屋氏が辺野古移設で悪戦苦闘するさまが書かれている。小泉元首相が守屋氏に指示したことは、人家への騒音を押さえることと、海の埋め立てをできる限り避けることだった。
「いくら地元の主張が賛成したからといって、環境団体は抑えきれない。池子がいい例だ」
「環境という言葉に国民は弱い。環境派を相手に戦ってはだめだ」
「それほど住民運動は怖いんだよ。執念深い。絶対に海に作るのは駄目だ。陸上案が海兵隊の訓練に支障をきたすというなら、君の言うように宿営地につくればいい。金は多くかかるが、辺野古沖の埋め立てよりいい。俺の考えははっきりしているから、君の考えで案を作ってくれ。事務方で交渉をまとめられないなら、俺がブッシュと話してまとめるから」
と小泉元首相は守屋氏に自分の考えを伝えた。小泉元首相が恐れていたのは環境団体の反対運動だった。

守屋氏は小泉首相の考えを実現するためにL字型飛行場案を考える。L字案は辺野古の外海の埋め立てをしないし騒音も押さえたものであったと守屋氏は述べている。ところが沖縄の北部の経済界と政治家はアメリカに働きかけて「名護ライト案」をアメリカ側に提案させる。「ライト」とは浅瀬のことで辺野古の海の浅瀬に飛行場をつくる案だった。守屋氏はアメリカ側が出した「名護ライト案」は「沖縄県防衛協会」の北部支部の出した案と同じであることに気づく。北部支部のほとんどの会員は建設業者だった。米国防省副次官ローレス氏は「沖縄がこれなら賛成と言っている」と「名護ライト案」に固執したが、守屋氏は小泉元首相に「アメリカの提示した名護ライト案は、実現不可能なことがわかっているのに合意しようとしているものです。地元は賛成しているということでアメリカ側も、加えて外務省も自民党の国会議員もこれを推していますが、これはきれいな海を埋め立てるもので国民の支持を失うことは明らかです」と訴え、藻場やサンゴの少ない大浦湾側に82ヘクタール寄せたL字型飛行場を提案して小泉元首相の許可を得る。しかし、北部の経済界や政治家は埋立て地が小さいL字型案を嫌い、辺野古の海側へ延長する案を主張して、沖縄の政治家や国会議員に働きかける。仲井真知事も海に200メートル延長しないと辺野古基地に賛成しないと言っていた。

辺野古の海の埋め立てに徹底して反対する守屋氏は孤立無援になる。沖縄側の守屋氏への圧力はすさまじく、圧力に屈した守屋氏は妥協をして辺野古の海の埋め立てをするV字型案を認めることになる。
「『普天間』交渉秘録」を読むと北部の経済界と政界が強く結束して沖縄の政治家、国会議員、アメリカなどへ暗躍していることがわかる。

現在、賑わっている辺野古アセス問題は沖縄の経済界と政治家が辺野古の海の埋め立てにこだわったからである。小泉元首相は環境団体の反発を恐れて海を埋め立てない飛行場をつくるのを目指し、守屋氏が提案したL字型飛行場をつくろうとしたが、沖縄側の反撃でV字型飛行場になった。

辺野古の海の埋め立てを主張したのは沖縄側であり、埋め立てに反対しているのも沖縄側である。本当は沖縄の反対派、賛成派が腹を割って討論すべきである。しかし、賛成派の中心は建設業界を中心にした金儲け派であり、反対派は反米主義政治家や知識人である。話はかみ合わないだろう。

佐藤優氏は守屋武昌氏(元防衛事務次官)の著作『「普天間」交渉秘録』を読んで、守屋武昌氏を「要は出世のために沖縄を道具として用いたにすぎない標準的な防衛官僚」と見ているが、辺野古問題を担当した守屋氏は小泉元首相の考えを理解し、小泉元首相の指示を実現するために頑張った忠実な防衛官僚である。政治家ではない彼は根回しの方法を知らないから孤立していく。彼をかばったのは小泉元首相だけであった。

佐藤氏は「守屋氏は沖縄を大切にしているか?」と守屋氏に疑問を投げかけているが。守屋氏が小泉元首相の命を受けて、辺野古の海の埋め立てを極力避け、騒音を軽減しようと頑張ったことは確かである。

佐藤氏は「構造差別」などと沖縄を被害者に見立てているが、辺野古基地移設で大儲けしようとしている沖縄の人間がいるし、辺野古が過疎化しないために辺野古移設を望む人たちがいるし、米軍基地があったから戦後の日本・沖縄が戦争に巻き込まれなかったことや社会主義国家にならなかった歴史的事実があることを無視してはほしくない。


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この記事へのコメント
いつも有難うございます。

「米軍基地があったから戦後の日本・沖縄が戦争に巻き込まれなかった」

とありますが、これは、鹿児島や熊本、山口ではなくなぜ当たり前のように沖縄なのでしょうか。

最近そういう風に考えるようになりました。
Posted by 皿うどん at 2012年01月30日 02:29
 
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